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東京地方裁判所 平成元年(ワ)6758号 判決 1992年9月30日

原告

金井宏樹

右訴訟代理人弁護士

矢島邦茂

被告

株式会社カネシン

右代表者代表取締役

吉田孝志

右訴訟代理人弁護士

服部正敬

右訴訟復代理人弁護士

服部訓子

主文

一  被告は、原告に対し、金一二九二万円及びこれに対する平成元年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告が金三〇〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一被告は、原告に対し、金三〇八九万九四八二円及び内金一九八三万四〇八〇円に対する訴状送達の日の翌日から、内金八二九万九〇五二円に対する平成三年一〇月三日付け請求の拡張申立書送達の日の翌日から、内金二七六万六三五〇円に対する平成四年九月一六日付け請求の拡張申立書送達の日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一本件は、被告の取締役であった原告が、在職中に創作、考案し、被告に帰属するに至った意匠、考案について、意匠法一五条三項及び実用新案法九条三項により準用される特許法三五条三項に基づき、その対価の支払いを求めるものである。

二争いのない事実

1  被告は、建築用金物の製造及び販売を主たる目的とする会社であり、原告は、昭和五三年九月の被告設立と同時に同社の専務取締役に就任し、それ以来昭和六三年九月に辞任するまで、その地位にあったものである。

原告は被告において、営業を担当していたが、在職中、被告の業務範囲に属する別紙意匠目録(一)ないし(八)各記載の意匠(本件意匠(一)ないし(八))を職務上創作し、別紙実用新案目録(一)ないし(三)各記載の実用新案登録にかかる考案(本件実用新案(一)ないし(三))を職務上考案した。

2  被告は原告から、別紙意匠目録及び実用新案目録記載の出願日に先立ち、職務上の創作・考案として、本件意匠(一)ないし(八)にかかる意匠登録を受ける権利及び本件実用新案(一)ないし(三)にかかる実用新案登録を受ける権利を有効に承継した。

3  その後、本件意匠(一)ないし(八)及び本件実用新案(三)については、それぞれ被告を意匠権者及び実用新案権者として、別紙意匠目録及び同実用新案目録記載の登録日に設定登録された。

また、本件実用新案(一)、(二)にかかる実用新案登録を受ける権利は、その後被告から訴外東日本ハウス株式会社に譲渡され、いずれも同社を実用新案権者として、別紙実用新案目録(一)、(二)記載の各登録日に設定登録された。

4  被告は、意匠法一五条三項及び実用新案法九条三項により準用される特許法三五条三項により、原告に対し右各権利の承継に対する相当の対価を支払う義務がある。

三争点

本件意匠(一)ないし(八)にかかる意匠登録を受ける権利及び本件実用新案(一)ないし(三)にかかる実用新案登録を受ける権利の承継に対し、被告が支払うべき相当の対価の金額は、いくらになるか。

1  原告の主張

(一) 本件各意匠、本件各実用新案については、原告が、被告の営業担当役員としての勤務時間外や営業活動の合間をぬって、いかなる物品が必要であるかという問題設定から、着想、研究等を単独で行って、創作、考案したもので、被告から研究開発費の支給や資材の供与を受けたことはなく、被告が研究設備を整えたこともなかった。もっとも、試作について被告の下請け等に依頼したことはあったが、被告の負担はなかった。

つまるところ、本件各意匠の創作及び本件各実用新案の考案をするにあたって、使用者である被告の貢献は皆無である。

しかも本件各意匠や本件各実用新案については、これら各意匠、各実用新案にかかる物品のみで商品として販売できるものであるから、それだけで価値があり、被告が他の物品を加えて製品化するというように、被告によって価値を付加されるところがない。この点においても被告の貢献はない。

(二)(1) また、本件各意匠ないし本件各実用新案にかかる物品については、原告の創作、考案がなければ、被告はこれら意匠及び実用新案にかかる物品を販売し、利益をあげられなかったものであるから、本件各意匠及び本件各実用新案と被告の利益の因果関係は明白であり、かつ被告は本件各意匠及び本件各実用新案の権利を受ける権利を承継した結果、各意匠及び各実用新案を排他的、独占的に実施する地位についたのである。そうしてみると、本件各意匠、本件各実用新案にかかる物品の売上げは、まさに原告の意匠の創作及び実用新案の考案によってもたらされたといえるのであるから、準用される特許法三五条四項の「その発明により使用者等が受けるべき権利の額」は、それらの物品の売上高を基準として考えるべきである。

したがって、右各物品の総売上高を基準にして、本件各意匠及び本件各実用新案にかかる物品の売上げの中に占める材料費等の必要経費を差し引いた営業利益の割合及び前記のような被告の貢献の程度を考慮すると、控え目にみても原告の「相当な対価」の算定基準としては、売上高の二%を下回るものではない。

(2) なお、本件実用新案(一)及び(二)については、被告は、原告から承継した実用新案登録を受ける権利を、訴外東日本ハウス株式会社に譲渡したところ、この譲渡代金については、被告と同社との間で、具体的な取決めはされなかったものの、東日本ハウスは、被告に右各実用新案にかかる物品の製造を一任し、被告からこれを購入する旨取決められていた。

したがって、本件実用新案(一)及び(二)について実用新案登録を受ける権利が被告から東日本ハウスへ譲渡されても、同社と被告との取決めによって、被告は自己が実用新案権者として製造販売しているのと同じ利益を受けているものであるから、本件実用新案(一)及び(二)の関係でも、「相当な対価」の算定基準に差異はない。

東日本ハウスへの本件実用新案(一)及び(二)にかかる物品の売上げが伸びたことについての対価が、原告の専務取締役としての報酬に含まれて支払い済みであるとの事実はない。

(3) 本件意匠(一)ないし(八)及び本件実用新案(一)ないし(三)にかかる物品の売上額は別紙売上計算表(原告主張)どおりであるから、昭和六三年八月までの総売上高は九億九一七〇万四〇〇〇円、これに対する二%の相当な対価は一九八三万四〇八〇円(訴状による請求分)、昭和六三年九月から平成三年八月までの総売上高は四億一四九五万二六三二円、これに対する二%の相当な対価は八二九万九〇五二円(平成三年一〇月三日付け請求の拡張申立書による請求分)、平成三年九月から平成四年八月までの総売上高は一億三八三一万七五四四円、これに対する二%の相当な対価は二七六万六三五〇円(平成四年九月一六日付け請求の拡張申立書による請求分)であり、相当な対価の合計は三〇八九万九四八二円となる。

(三) 仮に右(二)の算定方法によることができず、相当な対価を実施料率を基準として算出するとしても、以下の事情からすると、本件の場合実施料率は売上高の五%を下回らないと認めるべきで、かつ、被告の貢献としてこの実施料から減額すべき要素が皆無であることは(一)のとおりである。

(1) <書証番号略>に示される訴外殖産住宅相互株式会社と(旧商号株式会社カネシン金井製作所)間の工業所有権実施許諾の事例によれば、通常の実施許諾よりも限定された範囲内でしか意匠権、実用新案権を実施できないものであるのに、実施料率は五%とされている。このことから見ても、本件各意匠、本件各実用新案の実施料率についてはこれを下回るものではない。

(2) 被告は昭和五三年九月に設立され、同年度(昭和五四年一月まで)の売上げは約三八〇〇万円、同五四年度は約二億六〇〇〇万円、その後毎年増加して昭和六三年度では、約一五億四二〇〇万円にも急成長したが、これはすべて原告による本件各意匠及び本件各実用新案にかかる物品を含む各種製品の開発によると言っても過言ではない。なぜなら、住宅メーカーが建築金物を購入する際、ある金物メーカーから新しい金物を一つでも購入すれば、それにともない住宅建築に必要なその他の金物も合わせて当該金物メーカーから購入するということになる取引状況があるところ、原告が本件各意匠、本件各実用新案を創作、考案し、その意匠登録を受ける権利、実用新案登録を受ける権利を被告に譲渡したため、被告が住宅メーカーの要望に合う物品を開発したこととなり、それを住宅メーカーが採用し、その他の金物類も購入されたため、このように一挙に取引きが増加し、急成長を遂げたのである。

(3) しかもこのような工業所有権を有することにより、それまでの意匠権、実用新案権と抵触しないことが裏付けられ、かつその商品を独占的に製造販売できるため、意匠権、実用新案権を有する金物メーカーだけが他の建築金物類の売上げも急増させることができるのである。

このことは、被告自身製品カタログにおいて、本件各意匠、本件各実用新案にかかるものを含め、工業所有権により保護されているために被告が独占的に製造している物品を、「カネシンオリジナル」と名前を付けて主力製品として紹介していることからも明らかである。

(4) そして、本件各意匠権、本件各実用新案権にかかる物品は、住友林業、野村不動産、住友不動産ホーム、三井ハウス、西武不動産等の大手の住宅メーカーに採用されるに至っているものであり、中でも本件意匠(一)にかかる三角プレートは、右以外の三菱地所、太平住宅、東日本ハウス、殖産住宅等にも採用され、ほとんど全ての住宅メーカーを網羅しているのである。

(四) 被告は、本件各意匠にかかる物品は、建築が進捗するにつれて最終的には見えなくなるものがほとんどであるから、その価値が低いと主張するが、本件意匠(六)にかかる物品は、建物の外からも見えるところに使用されるのであり、他の意匠にかかる物品も通常建物の外から見えにくい位置に使用されることが多いだけで、全部隠蔽されるわけではない。またこれら意匠にかかる物品は、そもそも建築業者等に販売するのであり、買い主である建築業者は、右物品を目の当たりにしているのであるから、被告の右主張は失当である。

しかも本件意匠にかかる物品の建築金具としての価値は、その形状のゆえにあるのであり、他方意匠は物品の形状と密接不過分の関係にあることは明らかであるから、識別のためにしか意匠が役立たないということはない。意匠にかかる物品のような形状をしているからこそ、作業が容易になったり、柱をより確実に接合できるなどの機能を有するのである。本件各意匠がなければ、そもそも本件意匠にかかる物品は存在しないのである。

2  被告の主張

(一) 職務発明における特許法三五条四項の「相当な対価」の算定基準の一要素である「発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは、「その発明により現実に受けた利益」を指すのではなく、「使用者等が、受けることになると見込まれる利益、すなわち使用者等が当該権利承継により取得し得るものの承継時における客観的価値を指すもの」と解すべきである。原告主張のように売上高を基準とすると当該物品が発売されている間使用者等が承継するものの客観的価値が決まらないこととなる。そして客観的な価値とすれば、被告の製品は建築用金物として建物が完成すれば全部隠れてしまうものであるから、意匠そのものでそれほど売れるものではなく、せいぜい他社製品との識別に意味をもつ程度であり、売れるのは意匠のためではなく、被告の営業力及び企業としての社会的信用によるものである。製品の単価から見ても、意匠一つ当たり一〇万円程度のものにすぎない。また、本件実用新案(三)については、二〇万円程度のものである。

(二) 昭和六三年九月から平成三年八月までの本件意匠(一)ないし(八)及び本件実用新案(一)ないし(三)にかかる物品の売上高は別紙売上計算表(被告主張)のとおりであり、この間の総売上高は三億五六六四万八一二六円である。

(三) 仮に、本件実用新案(一)及び(二)の考案について実用新案登録を受ける権利を東日本ハウス株式会社に譲渡したことにより被告の同社に対する売上が伸びたとしても、それに見合う対価は営業担当の専務取締役である原告の報酬として、十分支払われている。

(四) 被告の受けるべき利益の額を、本件各意匠又は本件各実用新案にかかる物品の販売に対する実施料相当額をもって算定すべきであるとしても、本件の場合、被告は他者に対し本件各意匠又は本件各実用新案を有償で実施許諾していないから、算定基準の定めようがない。

第三当裁判所の判断

一意匠法一五条三項、実用新案法九条三項によって準用される特許法三五条三項及び四項によれば、従業者等は職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有するものとされ、その対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならないものとされている。

そして、当事者間に特段の合意のない限り、右相当な対価の請求権は、特許を受ける権利又は特許権の譲渡の効力が生じた時に発生し、対価の額はその時点における客観的に相当な額を定めるべきものと解するのが相当であるが、譲渡の効力が生じた時より後に生じた事情、例えば、特許登録がされたか否か、当該発明の実施又は実施許諾によって使用者等が利益を得たか否か及びその利益の額も、右時点における客観的に相当な対価の額を認定する資料とすることができるものと解するのが相当である。

二そこで、本件各意匠にかかる意匠登録を受ける権利及び本件各実用新案にかかる実用新案を受ける権利の譲渡に対する相当な対価の算定にあたって考慮すべき事項である創作又は考案により使用者等が受けるべき利益の額について検討する。

1 意匠法一五条三項及び実用新案法九条三項により各準用される特許法三五条一項によれば、使用者である被告は職務創作又は職務考案である本件各意匠、本件各実用新案について、当然に無償の通常実施権を取得するものである。したがって、被告が本件各意匠、本件各実用新案を受ける地位の承継を受けた場合に支払うべき相当な対価の算出にあたって考慮すべき「使用者等が受けるべき利益の額」とは、単に被告が本件各意匠、本件各実用新案を無償で実施することにより得られる利益の額をいうものではなく、本件各意匠権者又は本件各実用新案権者として本件各意匠又は本件各実用新案を実施する権利を専有することによって得られる利益の額を指すものといわなければならない。

そうしてみると、本件各意匠及び本件各実用新案の実施品の販売によって被告の得た利益から直接に「被告が受けるべき利益の額」が算定できるとする原告の主張は採用できない。

本件各意匠又は本件各実用新案を実施する権利を専有することによって得られる利益の認定方法としては、本件各意匠権者又は本件各実用新案権者であることによって、本件各意匠又は本件各実用新案を第三者に有償で実施許諾することが可能になることに着目すれば、本件各意匠権については意匠権設定登録の日から、本件各実用新案権については出願公告の日から、各存続期間の終了までの間、それらを自らは実施せず第三者に実施許諾したと仮定した場合に得られる実施料相当額が職務創作又は職務考案の実施を排他的に独占し得る地位を取得したことによりはじめて受け取ることができる利益であるとみなすことができるから、右実施料相当額を基準として被告が受けるべき利益の額を認定することも許されるものというべきである。

右認定方法は、各権利を被告が自らは実施せず第三者に実施許諾したと仮定して、その場合の実施料相当額を基準とするものであるから、被告が現に有償で実施許諾しているか否かにはかかわるものではない。

2  まず、本件各意匠及び本件各実用新案を第三者に実施許諾したと仮定した場合の実施料を算定するために、本件各意匠権及び本件各実用新案権の存続期間内における、当該第三者による各権利の実施品の売上高について検討する。

本件各意匠及び本件各実用新案については第三者に実施許諾した例があるものとは認められないので、実施許諾された第三者の売上高を直接認定するに足りる証拠はないが、被告は、本件各意匠権、本件実用新案権(三)外の工業所有権を有し(<書証番号略>)、本件実用新案権(一)、同(二)について後記認定のような権利者である東日本ハウスとの契約関係がある以外には、特別に著名な会社であるとか、特別に営業力があるものとは認められないので、本件各意匠及び本件各実用新案について実施許諾された第三者は、被告と営業方法、営業力に多少の相違は有るものとしても、被告が本件各意匠権及び本件各実用新案権の存続期間内に各権利の実施品を売る売上高の少なくとも二分の一の売上を得ることができるものと推認することができる。

次に、本件各意匠及び本件各実用新案を第三者に実施許諾したと仮定した場合の実施料を算定するための実施料率について検討する。

本件各意匠及び本件各実用新案については第三者に実施許諾した例があるものとは認められないので、実施許諾された第三者の支払う実施料率を直接認定するに足りる証拠はないが、社団法人発明協会研究所が行った昭和四三年から昭和五二年の実施許諾契約の実態調査の結果によれば、本件各権利の実施品が属する末端的な金属製品の、イニシャル(頭金)なしの場合の実施料率のばらつきは一%から一九%で、最頻値が三%、中央値が四%、平均値が4.51%であること(<書証番号略>)、本件で問題となっている権利は意匠権及び比較的単純な内容の実用新案権で、製造にノウ・ハウ等はあまりなく、図面さえあれば高度な技術を必要としないで生産できること等を考慮すると、本件各意匠及び本件各実用新案を第三者に実施許諾したと仮定した場合の実施料を算定するための実施料率は二%と認めるのが相当である。

3  右に検討したところに基づいて、本件各意匠及び本件各実用新案により使用者である被告が受けるべき利益に相当する、本件各意匠及び本件各実用新案を第三者に実施許諾したと仮定した場合の実施料について検討する(なお、本項の計算においては、一万円未満を切り捨て、計算上一万円に満たない実施料については一万円とする。)。

(一) 本件意匠(一)について

被告は、本件意匠(一)の登録の翌年である昭和五八年度から平成元年度まで(昭和五八年度は一〇月から昭和五九年一月までの四か月)の六年四月間に、商品名を三角プレートとして、本件意匠(一)の実施品を合計四億一七四九万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると六五九五万円となるから、この割合で本件意匠権(一)の存続期間一五年間の推定売上を求めると九億八九二五万円となる。本件各意匠は、それぞれの構成態様自体が有する建築用金物としての機能にも特色があるものである(<書証番号略>、原告本人)から、年月の経過により当然に陳腐化するものではなく、競争商品が現在以上に出現する蓋然性は不明という外はないから、特段の事情のない限り、実績に基づく右のような推定売上高の認定は妥当なものである。

したがって、本件意匠(一)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも四億九四六二万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、九八九万円となる。

(二) 本件意匠(二)について

被告は、本件意匠(二)の登録の翌々年である昭和五八年度から平成元年度まで(昭和五八年度は一〇月から昭和五九年一月までの四か月)の六年四月間に、商品名をマイティコーナーとして、本件意匠(二)の実施品を東日本ハウスに対し合計二四三六万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると三八四万円となるから、この割合で本件意匠権(二)の存続期間一五年間の推定売上を求めると五七六〇万円となる。したがって、本件意匠(二)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも二八八〇万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、五七万円となる。

(三) 本件意匠(三)について

被告は、本件意匠(三)の登録の年である昭和六〇年度から平成元年度までの五年間に、商品名をレッグ六〇〇として、本件意匠(三)の実施品を合計一億一六五二万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると二三三〇万円となるから、この割合で本件意匠権(三)の存続期間一五年間の推定売上を求めると三億四九五〇万円となる。したがって、本件意匠権(三)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも一億七四七五万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、三四九万円となる。

(四) 本件意匠(四)、同(八)について

被告は、本件意匠(八)の登録の年である昭和六二年度から平成元年度までの三年間に、商品名をクロス引き金物として、本件意匠(八)の実施品を合計二四五九万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると八一九万円となるから、この割合で本件意匠権(八)の存続期間一五年間の推定売上を求めると一億二二八五万円となる。したがって、本件意匠(八)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも六一四二万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、一二二万円となる。

被告は、本件意匠(四)の登録の年である昭和五九年度一年間に、商品名を両引き羽子板金物として、本件意匠(四)の実施品を一四九万円売り上げた(<書証番号略>)。本件意匠(八)は本件意匠(四)の強度を大きくするために創作されたもので、昭和六〇年に本件意匠(八)の実施品が完成した段階で本件意匠(四)の実施品の製造販売を中止したものであり(<書証番号略>、原告本人)、本件意匠(四)の実施品の製造販売中止の時期は、本件意匠(八)の登録出願の直後頃と推認されるから、本件意匠(四)を第三者に実施許諾したとしても、当該第三者は本件意匠(四)の登録から約半年しか販売することができなかったものと推認され、その半年間に得られたものと推認される売上は、被告の年間売上である一四九万円の半年分七四万円の二分の一の三七万円となる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、七四〇〇円となるのでこれを切り上げ一万円とする。

(五) 本件意匠(五)について

被告は、本件意匠(五)の登録の年である昭和六二年度から平成元年度までの三年間に、商品名をダンフーバーとして、本件意匠(五)の実施品を合計一七二〇万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると五七三万円となるから、この割合で本件意匠権(五)の存続期間一五年間の推定売上を求めると八五九五万円となる。したがって、本件意匠(五)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも四二九七万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、八五万円となる。

(六) 本件意匠(六)について

被告は、本件意匠(六)の登録の年である昭和六二年度から平成元年度までの三年間に、商品名を鋳鉄製床下換気口として、本件意匠(六)の実施品を合計五八五七万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると一九五二万円となるから、この割合で本件意匠権(六)の存続期間一五年間の推定売上を求めると二億九二八〇万円となる。したがって、本件意匠(六)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも一億四六四〇万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、二九二万円となる。

(七) 本件意匠(七)について

被告は、本件意匠(七)の登録の年である昭和六二年度から平成元年度までの三年間に、商品名をダンプラップとして、本件意匠(七)の実施品を合計八一三万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると二七一万円となるから、この割合で本件意匠権(七)の存続期間一五年間の推定売上を求めると四〇六五万円となる。したがって、本件意匠(七)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも二〇三二万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、四〇万円となる。

(八) 本件実用新案(三)について

被告は、本件実用新案(三)の出願公告の年である昭和六〇年度から平成元年度までの五年間に、商品名をダンタックルとして、本件実用新案(三)の実施品を合計四九八万円売り上げた(<書証番号略>)。

右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると九九万円となるから、この割合で本件実用新案権(三)の存続期間一〇年間の推定売上を求めると九九〇万円となる。本件各実用新案はその構成によって奏する作用効果に特色があるものである(<書証番号略>、原告本人)から年月の経過により当然に陳腐化するものではなく、競争商品が現在以上に出現するか否かは不明という外はないから、特段の事情のない限り、実績に基づく右のような推定売上高の認定は妥当なものである。

したがって、本件実用新案(三)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも四九五万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、九万円となる。

(九) 本件実用新案(一)、(二)について

被告は、原告から承継した実用新案(一)及び(二)について実用新案登録を受ける権利を東日本ハウスに譲渡し、その代償として、被告がそれらの実施品を一手に製造し東日本ハウスに納入する約定をし、その約定に基づき、それらの実施品をマイティホルダーB1、マイティホルダーB2の商品名で製造し、東日本ハウスに販売していた(<書証番号略>、原告本人)。

被告は、本件実用新案(一)の出願公告の年である昭和五八年度から昭和六二年度までの四年四月間に、マイティホルダーB1を合計三七七万円売り上げたが、昭和六三年度以降は東日本ハウスの仕様変更で製造納入していない(<書証番号略>、原告本人)。したがって、本件実用新案権(一)の存続期間一〇年間の売上も、三七七万円となる。

被告は、実用新案(二)の出願公告の年である昭和六〇年度から平成元年度までの五年間に、マイティホルダーB2を合計二五八七万円売り上げた(<書証番号略>)。右金額から、一年当たりの平均売上を計算すると五一七万円となるから、この割合で本件実用新案権(二)の存続期間九年六月間の推定売上を求めると四九一一万円となる。

本件実用新案(一)及び(二)の実用新案登録を受ける権利は、現実には東日本ハウスに譲渡され同社がそれらの実用新案権を有し、被告がそれらの実施品を一手に製造し東日本ハウスに納入しているが、それは被告がそのような形態でそれらの権利を営業上の取引方法として利用したことによるものであり、実用新案登録を受ける権利を東日本ハウスに譲渡しなければ、被告がそれらの実用新案権を取得し、東日本ハウスに販売したのと同程度の売上を上げることができたものと推認することができる。

したがって、それらの実用新案登録を受ける権利の譲渡の相当な対価を算定するに当たって、右のように推認された被告の売上をもとに、本件実用新案(一)、(二)について第三者が実施許諾を受けた場合、存続期間の終了まで少なくとも本件実用新案(一)につき一八八万円、本件実用新案(二)につき二四五五万円の売上を得ることができるものと推認することができる。

右推定売上高に実施料率二%を乗じて実施料を求めると、本件実用新案(一)につき三万円、本件実用新案(二)につき四九万円となる。

三次に、本件各意匠にかかる意匠登録を受ける権利及び本件各実用新案にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡に対する相当な対価の算定に当たって考慮すべきもう一つの事項である、その創作及び考案について使用者等が貢献した程度について検討する。

1  原告は、被告の営業担当の専務取締役の地位にあり、営業活動を通じ顧客のニーズを知り、それが本件各意匠の創作、本件各実用新案の考案につながったものもあるが、被告には組織として新製品の開発にあたる部署はなく、本件各意匠の創作、本件各実用新案の考案については被告の従業員等の協力はなく、専ら原告一人の研究の成果であること、原告の創作、考案のための研究、思索は、被告の専務取締役としての職務時間内にも行われたが、その多くは出張の際の列車中や自動車の運転中であり、その他は昼休み、夜間の私的な時間があてられたこと、原告は被告から専務取締役としての報酬は得ていたが、特に本件各意匠、本件各実用新案その他の創作、考案をしたことやそれらを被告に承継したことによる加算、増額は行われていないこと、試作品の強度試験を公的機関に依頼するについては、被告の名義で行い一〇万円程度の費用を被告が負担したことはあったが、それ以外に研究費、試作費、材料費等を被告が負担したことはなかったこと(原告本人)によれば、本件各意匠の創作、本件各実用新案の考案にあたっては、原告個人の努力、貢献が大きく、被告の貢献はさほど大きくないものと評価するのが相当であるから、本件各意匠及び本件各実用新案の創作及び考案について被告が貢献した程度を考慮すれば、右二3に認定した本件各意匠及び本件各実用新案により使用者である被告が受けるべき利益の六五%をもって、本件各意匠にかかる意匠登録を受ける権利及び本件各実用新案にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡に対する相当な対価と認めるのが相当である。

2  右に検討したところに基づいて、本件各意匠にかかる意匠登録を受ける権利及び本件各実用新案にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡に対する相当な対価について検討する(本項の計算においても一万円未満を切り捨て、計算上一万円に満たない対価は一万円を相当対価とする。)。

(一) 本件意匠(一)について

本件意匠(一)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(一)認定の被告が受けるべき利益九八九万円の六五%の六四二万円と認める。

(二) 本件意匠(二)について

本件意匠(二)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(二)認定の被告が受けるべき利益五七万円の六五%の三七万円と認める。

(三) 本件意匠(三)について

本件意匠(三)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(三)認定の被告が受けるべき利益三四九万円の六五%の二二六万円と認める。

(四) 本件意匠(四)、同(八)について

本件意匠(八)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(四)認定の被告が受けるべき利益一二二万円の六五%の七九万円、本件意匠(四)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(四)認定の被告が受けるべき利益一万円の六五%の六五〇〇円となるので、切り上げて一万円と認める。

(五) 本件意匠(五)について

本件意匠(五)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(五)認定の被告が受けるべき利益八五万円の六五%の五五万円と認める。

(六) 本件意匠(六)について

本件意匠(六)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(六)認定の被告が受けるべき利益二九二万円の六五%の一八九万円と認める。

(七) 本件意匠(七)について

本件意匠(七)にかかる意匠登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(七)認定の被告が受けるべき利益四〇万円の六五%の二六万円と認める。

(八) 本件実用新案(三)について

本件実用新案(三)にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(八)認定の被告が受けるべき利益九万円の六五%の五万円と認める。

(九) 本件実用新案(一)、(二)について

本件実用新案(一)にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(九)認定の被告が受けるべき利益三万円の六五%の一万九五〇〇円の一万円未満を切り捨てて一万円、本件実用新案(二)にかかる実用新案登録を受ける権利の譲渡の対価は、前記二3(九)認定の被告が受けるべき利益四九万円の六五%の三一万円と認める。

(一〇) 結論

右(一)ないし(九)認定の対価の合計は総額一二九二万円となる。

四1  原告は、自らが現在経営している会社が殖産住宅相互株式会社から通常実施権の設定を受けた契約において、実施料を売価の五%と定めている(<書証番号略>)から、被告が受けるべき利益の算定にあたっても実施料率を五%とするのが相当であると主張するが、右契約は技術の開発に協力したことの報酬として、原告が経営する会社に独占的に製造を受託する事例において、原告の会社が、例外的に殖産住宅株式会社の承諾を得て他社に販売する場合の実施料率であるから、右の特殊な事例をもって一般的な実施料率と認めることはできない。

また、原告は、本件各考案、本件各意匠の実施品を購入する住宅メーカーは、住宅建築に必要な他の金物も被告から購入することになり、そのことにより被告の売上げが急成長したと主張するが、そのような傾向があるとしてもその金額、程度を明らかにすることはできないから、その程度のものとして考慮すれば、前記認定の実施料率が相当であり、これを不当とするべきものとは認められない。

2  被告は、本件各意匠の実施品は建築用金具として建物が完成すれば全部隠れてしまうものであるから、意匠そのものでそれほど売れるものではない等と主張するが、本件意匠(六)は建物完成後も外部から見ることができるものである上、本件各意匠はいずれも建築用金物にかかるものであって、建築業者を直接の需要者とするものであり、建築業者はその意匠を観察することができ、しかも前記のとおり本件各意匠はそれぞれの構成態様自体が有する建築用金物としての機能にも特色があるものであることを考慮すれば、本件各意匠の実施品の売上が意匠の構成態様によって左右される程度が大きいものと認められ、被告の主張は採用できない。

五そうすると、原告の本訴請求は、金一二九二万円及びこれに対する平成元年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官宍戸充 裁判官櫻林正己)

別紙意匠目録

(一) 創作者 原告

意匠権者 被告

登録番号 五八五七四四

出願 昭和五四年九月七日

登録 昭和五七年七月二〇日

(二)ないし(八)<省略>

別紙実用新案目録<省略>

別紙売上計算表<省略>

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